瞑想とリカバリー written by 池上秀志

瞑想とリカバリー written by 池上秀志

瞑想とリカバリー

科学技術の発展とともに今日では様々なリカバリーツールが開発されており、それが我々の競技力向上に役立っていることに疑問の余地はない。特に故障の予防や故障の治療に役立つ機器は多種多様なものが出回っており、かつ安価で手に入るようになったのも大きい。

一方で依然として、食事、睡眠、日光浴、水分補給などの人間が古来からずっと自然の一部として取り入れてきたものが重要であることにも議論の余地がなく、理学療法さえ行っていれば何を食べても良いとか寝なくても良いということにはならない。

瞑想はこのどちらにも分類しがたいものだと思う。東洋ではかなり昔からあるが一般的ではなく、今日では西洋においての方が一般的である。西洋においても瞑想が一般に認知され始めたのはせいぜいこの20年である。そもそもは瞑想にも多様なやり方があるということもあまり認知されていない。私が知る限り、瞑想をルーティーンの中に取り入れているのはテニスプレーヤーのジョコビッチとドイツの双子のマラソンランナー、アンナ・ハーナーとリザ・ハーナーの二人である。

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瞑想の目的は人それぞれだと思うが、私が瞑想に求める一番のメリットはリカバリーの促進と故障の治癒及び予防である。回復やアンチエイジングのカギを握るものはテロメアというDNAの無意味な繰り返し配列である。細胞分裂には限られた回数があり、その細胞が複製される回数はこのテロメアによって決まる。従って、このテロメアが短ければ短いほど、老化も早くなるのであるがこのテロメア伸張を引き起こすテロメラーゼという酵素が睡眠と瞑想によって引き起こされる。このテロメア伸張によって回復も促される。

従って、アスリートにとっては睡眠がリカバリー戦略のカギを握るのであるがそれを補助するのが瞑想だと思っていただいて構わない。睡眠がリカバリーを促す理由の一つは、睡眠中のより高次の意識状態(身体感覚から離れた意識状態)が細胞の自己統制(self regulating)を促すからだと考えられる。高次の意識状態がなぜ細胞の自己統制を促すのかは私にはわからないが、人間の60兆の細胞は常にそれぞれ無意識のうちにホメオスタシス機能を働かせて、正常状態を維持している。これは我々の覚醒時も同じで難しい数学の問題を解いてる時は、細胞分裂するの忘れてたとか、体のある部分への細胞に必要な水分を供給するの忘れてたとかいうことにはならないわけである。睡眠中には身体的な意識感覚がなくなることによって、身体的ではない意識の力が増大するのではないかというのが私の仮説である。

理由はともかく、古代インドから伝わるアーユルヴェーダでは身体的感覚から離れて、無限の自我を感じる時、細胞の自己統制が促されると考えられている。天風会という心身統一の方法を教える会があるが、その会の創始者である故中村天風氏も当時不治の病とされていたギャロップ性の結核をヨガで治した張本人である。

アーユルヴェーダはアユス(生命)とヴェーダ(科学)の二語からなる言葉でヨガとは統一という意味で一般に思われているようなストレッチのようなポーズを指すわけではない。あれはヨガの中の一部である。

さて、本題に戻るがアーユルヴェーダでは瞑想中は覚醒、睡眠、夢のいずれでもない意識状態に入るとされている。近代に入って脳波を測定してみても、瞑想中はいずれの状態でもない脳波が確認された。この意識状態に入るとき、心身ともにフレッシュになり、細胞の自己統制が促されるようである。

瞑想にも様々なやり方があることは先述したが、あらゆる疾患、外傷及び内傷の治癒を促すと結論付けた研究結果が多いのは超越瞑想という手法である。超越瞑想とはある決まったフレーズを心の中で繰り返すことである。このフレーズ自体には何の意味もないがこのフレーズが意識をここからあそこへと連れて行ってくれる役割を果たしている。私の場合は、サット・チット・アーナンダというマントラを用いている。サンスクリット語で純粋、経験、幸福という意味である。私はこの超越瞑想を苫米地英人博士が作った変性意識に入るための特殊音源かハイエフィケイサスな状態を作るための特殊音源を聞きながら30分ほど瞑想している。変性意識とは、厳密に言えば、目の前の物理空間に100%の臨場感を感じていない状態であるが、ここでは目の前の物理空間よりも頭の中の情報空間により強い臨場感を感じている状態のことを指す。ハイエフィケイサスとは高い自己有用感を持った状態のことである。

おそらく、超越瞑想に関する研究が多いのはある決まったマントラを繰り返すという手法は初心者でも簡単に用いることが出来るからだと私は思う。これに対して、ビジュアライゼーション(視覚化)テクニックは、細部まで鮮明に思い描けるかどうかで効果も変わってくるのであろう。おそらく、ビジュアライゼーションテクニックの方が訓練さえ積めば大きな効果が得られるはずであるがここでは言及しない。

様々な研究結果で骨格筋の障害の治癒が有意に促進されることやアンチエイジングの効果が証明されているが、私の個人的な実感としてもリカバリーは有意に早くなったと感じられる。一番の違いは目覚めのすっきり感である。もう少し寝ていたいという感じがなくなり、すっきりと起きられるようになった。集中力も以前より上がり、勉強の効率も上がった。

さて、最後に注意しておきたいことを一点。西洋人が瞑想をストレッチやマッサージなどと同じような位置づけでとらえているのに対し、日本人は特別な何かを求めがちである。確かに熟練者になれば、呼吸や心臓の鼓動をゼロに近づけたり、痛みをコントロールできるだけでなく、出血も痛みもなく手にくぎを打ち込むこともできるようになる。しかしながら、これには訓練が必要で、野球に上手い下手があるのと同じで瞑想にも上手い下手がある。人知を超えた何かを期待するのではなく、入浴や昼寝によってリカバリーが促進されるというのと同じ感覚で続けていただきたい。因みに、アンチエイジング効果に最も差が出るのは五年以上継続した人とそうではない人との間である。同じ60歳の人同士を比べたところ、五年以上続けた人と何もやらなかった人との間には聴力、記憶力、握力などの複数の項目のテストにおいて、平均で12歳の差が見られた。客観的な指標にはなりえないが故に研究結果はないものの、外見が若く保たれることは言うまでもない。

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